ビショップ
いま僕らが戦っている相手は馬小屋ほどもある巨大な蟹のモンスター、ギガントクラブ。
甲羅が恐ろしく固く、鋭いハサミを信じられないスピードで振り回してくる強敵だ。
すると、
「…ちくしょう!やられた!回復頼む!」
戦士がそう言って脇腹に深い傷を負って後衛の僕の所へやってきた。僕の出番だ。
僕はすかさず回復魔法を唱える。
「アーク・マヒテ・レムファーレ。大地と大気に潜む癒し手たちよ、ひと時ここに集いて、かの者の傷を癒したまえ…」
戦士の体を柔らかな光が包み、徐々に傷が癒えていく。
「サンキュー!じゃあ行ってくるぜ!うおおおおお!」
光が消えるか消えないかというタイミングで、敵に向かって突進していく戦士。
彼は再び前衛に加わり、戦闘に参加した。
ややあって、ようやく巨大蟹の動きが止まった。どうやら、僕らのパーティは今回もモンスターを倒す事が出来たようだ。
僕らは最終目的地である魔王の城へ向かって、再び歩を進める。
僕らのパーティは6人。戦士(ファイター)、騎士(ナイト)、侍(ソードマン)、僧侶(ビショップ)、魔法使い(メイジ)、弓使い(アーチャー)。
直接攻撃をする前衛が3人、遠隔攻撃や魔法を受け持つ後衛が3人。職業だけで見るなら、ごくごく一般的なバランスの取れたパーティ、という奴だ。
「職業だけで見るなら」というのは、実はうちのパーティはちょっとバランスが悪い。具体的に言うとトータルの攻撃力は高いのだが、本来僧侶が受け持つ回復系・補助系魔法の種類が今一つ少ない。まあ、それは僕のせいでもあるのだけれど。事実今日、僕はもう後1回分くらいしか回復魔法を唱えられない所まで、既に魔力を使ってしまっている。
早い所次の町で休んで魔力を回復しないと。こんな状態でまた強い敵に会ったら……と思った途端、首筋に生暖かい呼気を感じた。まずい!バックアタックだ!
振り向くと虎のモンスター、サーベルタイガーがその爪で僕を袈裟に引き裂こうとしていた。ああ、これ死んだな…そう思った瞬間、
「どけええええい!」
と矢のように飛んできた仲間にぶっ飛ばされ、僕の体は軽く宙を舞った。
彼は左腕で僕を突き飛ばし、そのままサーベルタイガーの横っ面に全体重を乗せた右拳をめり込ませていた。そしてそのまま虎の首をつかんで火花が出るような頭突きをかまし!更に左アッパーを顎下に打ち込み!のけぞって露わになった鳩尾に砲弾の如き中段突きを叩き込む!ところが虎のよろめきつつも放った爪の一撃が彼の胸に深い傷を負わせていた!
荒い息を吐き、距離を置いて対峙する仲間と獣…いや、獣2頭か?すると、僕らの仲間の方の獣が吠えるように魔法を唱えた。
「アーク・マヒ…あーもう面倒くせえ!とにかく癒せッ!」
…もう魔法じゃないよソレ。という僕の思いとは裏腹に、彼の体を激しい光が包み、ギュンギュン傷が癒えていく。
「ぃよぅし!行くぞおおおおらああ!」
再びぶつかり合う彼ら。他の前衛メンバーも合流し、戦いは続いた。
そして数分の後。
虎を踏んづけて得意げにマッチョポーズを取る仲間の獣が、僕に話しかけてきた。
マジか。人語をしゃべりやがる。
「よう、大丈夫だったか?お前も俺みたいに体鍛えないとイカンぞ!本来お前が前衛なんだからな!ガハハハハ!」
僕は
「そうですね、ハハハ…」
と力なく笑いながら、こう思った。
(助けてくれたのは有難いけどさー。ホント、魔法の素質あるんだからガチンコ肉弾バトルやってないで、ちゃんと僧侶の仕事やってくんないかなー。おかげで僕は侍のはずなのに慣れない回復魔法覚えるのが大変で、全然剣技の方修行できないもんなー。……あ、さっき突き飛ばされたせいで、足首捻挫してるわ。…あーもういいや、自分にかけちゃえ。アーク・マヒテ……)
柔らかな光が僕を包んだ。
サイコロの目 954-29
ビショップ