サイコロショートショート

サイコロで出た目に従って辞書を引き、その単語でショートショートを書いてます

素直

僕の彼女は素直だ。素直すぎる、と言っても良い。「トイレ行って来る」 「どっか行こうよ」 「エッチしたい」 「暑い」 「寒い」 「オナラしちゃった。ゴメンネ」 普通の女の子がちょっと躊躇ったり言いにくかったりする事でも、彼女は素直に、簡潔にぶつけ…

選ぶ

…暑い。なんて暑いんだ。 逃げ水がゆらめく暑さの中、僕は外回りの仕事に出ていた。 連日の激務、給料の安さ、今日の憎らしい程の太陽の元気さ、昼間にふらりと入った中華料理屋の不味さ、これから会う得意先の横柄さ、先週の恋人との大喧嘩…。どれもこれも…

交情

「……あーもう!馬っっっ鹿じゃないの!?あいつ!」 今日、あたしは部屋で一人そう叫ぶ羽目になった。 話の最初は1年前、中学2年の3月にさかのぼる。 隣の席に座ってた男子が、転校することになった。成績も普通、スポーツも普通、見た目も普通。地味でパ…

ビショップ

いま僕らが戦っている相手は馬小屋ほどもある巨大な蟹のモンスター、ギガントクラブ。 甲羅が恐ろしく固く、鋭いハサミを信じられないスピードで振り回してくる強敵だ。すると、 「…ちくしょう!やられた!回復頼む!」 戦士がそう言って脇腹に深い傷を負っ…

別後

「へえ、隊長は案外ナルシストなんですね」 安物の煙草の匂いと共に俺が眺めてる写真を覗き込んできたのは、古参の同志の一人だ。 政府軍の奴らのお祭り騒ぎみたいな攻撃が一段落したと思ったら、今度は俺たちレジスタンスの中で一番お喋りな男が来やがった…

官印

「おい馬鹿っ!おめえ何灯りつけてんだよ!」 いかにも卑しい顔立ちの、鼠のような風情の小男が、小さな声で隣の大男を叱り飛ばした。 これまた育ちとおつむの出来が悪そうな髭面の大男は、びくりとその図体をこわばらせつつも 「だってよう兄貴、こう暗くっ…

登竜門

黄河にある龍門という恐ろしく長く、激しい急流。鯉はそこを登り切ると龍になるという。 ある日、遂に一匹の鯉がそこを登り切った。 鯉の目の前に天から一条の光が差したかと思うと、それはみるみるうちに龍の形を成した。龍神である。 龍神、曰く「よくぞこ…

かちかち

まったく心外だ。どいつもこいつもまるっきり分かっちゃいない。 僕の周りの奴等ときたら、みんな判を押したように「お前は頭が固い」だの「君は頭かちかちだねえ」だのと言って、すぐに僕を馬鹿にする。 だいたい、僕が今までこの長い生存競争を生き残って…

はじめまして

はじめての人ははじめまして。久しぶりの人はお久しぶりです。愛知在住の漫画馬鹿ARRと申します。 長らくはてなダイアリーで漫画の感想などを書き散らして参りましたが、ちょっと文章修行の為ショートショートを書いてみる事にしました。 で、折角なら縛りを…