サイコロショートショート

サイコロで出た目に従って辞書を引き、その単語でショートショートを書いてます

かちかち

 まったく心外だ。どいつもこいつもまるっきり分かっちゃいない。

 僕の周りの奴等ときたら、みんな判を押したように「お前は頭が固い」だの「君は頭かちかちだねえ」だのと言って、すぐに僕を馬鹿にする。

 だいたい、僕が今までこの長い生存競争を生き残ってきたのだって、この柔軟な思考力で色々な危険から我が身を守ってきたからではないか。

 なのに今日はとうとう年下の奴にまで「いやー先輩アタマ固いっスねー!もっとこう柔らかく、なんつーか『くにゃっ』と生きられないもんですかね」なんて言われる始末。しかもそう言う時の若造の小憎たらしい仕草ときたら!だってあの若造、これ見よがしにグニグニ動きをつけて「ほらほら、僕らはこーんなに頭柔らかいんだから、そんなのおかしいですよ」とかのたまいやがった。だから僕は言ってやったんだ。「いや、まあ、わかる。わかるよお前の言いたい事は。僕たちはどこもかしこも柔らかくなきゃいけないって言いたいんだろう?でもな、さっきからお前が自慢げにグニグニやって見せてる所はな、そこは…」

 僕は一息おいて奴の目を見据え、刺すように言ってやった。そうだ、ここはひとつ無学な青二才にガツンとと教えてやらなけりゃならんのだ。

「そこは、腹だ。我々の本当の頭はな、足の…」

と、すべて言い終わらない内にその若造のみならず、周りにいた奴等全員から爆笑がまき起こった。

 まったく、僕の言動のどこが可笑しかったのか皆目見当がつかない。何故だ何故だ。何故笑われねばならんのだ。彼等の輪を離れ、ちょうど一人になって考えられそうな小部屋を見つけて潜り込み、激しい怒りにまみれながら延々考えていると、いつの間にか空気の違う所に引きずり出された。

 そして、見た事も無いおかしな生き物が僕を見てこう言った。

 「や、こいつは気の早い奴だ。どういうわけか、すっかり茹でダコになっていやがる」


サイコロの目 201−35

かち-かち
一. かたいものがぶつかりあう音。
二. �(物・人両方に用いて)ひじょうにかたくなっているさま。�頑固で融通がきかないさま。