素直
僕の彼女は素直だ。素直すぎる、と言っても良い。
「トイレ行って来る」
「どっか行こうよ」
「エッチしたい」
「暑い」
「寒い」
「オナラしちゃった。ゴメンネ」
普通の女の子がちょっと躊躇ったり言いにくかったりする事でも、彼女は素直に、簡潔にぶつけてくる。
今ではすっかり慣れたけれど、最初はそんな彼女に面食らったものだった。
ところが今日の午後、彼女がちょっとおかしな具合になった。
僕の家でご飯を食べた後、しばらく俯いていたかと思ったら、急にまくし立て始めた。
「…ねえ、ひとつだけ聞かせて。本当に私の事好き?本当に?本当の本当に?本当の本当の本当に?もっと普通の女の子の方が良いって思ってるんじゃないの?だって面倒でしょ?大変でしょ?だったらいいよ。もういいよ。無理しなくていいよ。私はあなたが好き。世界一好き。でも、だからこそ、あなたの重荷になったり、あなたが私のせいで幸せになれないのなんて、私には耐えられないの!」
彼女は肩で息をしていた。ぼろぼろ泣いていた。そして、真っ赤になった目で僕の目を真っ直ぐ見て、こう続けた。
「ねえ、だからひとつだけ聞かせて。絶対に嘘はつかないで。どんな答でもあなたを恨んだりしない。――本当の本当の本当に、私の事好き?」
僕は自分を恥じた。こんなに彼女の近くにいながら、彼女が「素直すぎる」事にこれほどの負い目を感じていた事に気付けなかった自分を強く恥じた。そうして僕は、力強くゆっくりと一つの仕草をしてから、車椅子に座った彼女を思い切り抱きしめた。
その仕草は、僕がいちばん初めに覚えた彼女達の言葉。
「愛してる」という意味の手話。
す-なお【素直】
①おだやかでさからわないさま。ひねくれたところがなく純真なさま。
➁くせがないさま。※実は今回はストックから使ったのでサイコロ振ってません。むかーし2chで「素直すぎる」ってスレがあって、その時に書き込みしたものをリメイクしてストックしてました。
しかし当時のスレ、調べたら2006年でしたよ。もう9年も前。時が経つのは早いのう。たまにはこういうのもいいよね。うん、いいことにしよう。