別後
「へえ、隊長は案外ナルシストなんですね」
安物の煙草の匂いと共に俺が眺めてる写真を覗き込んできたのは、古参の同志の一人だ。
政府軍の奴らのお祭り騒ぎみたいな攻撃が一段落したと思ったら、今度は俺たちレジスタンスの中で一番お喋りな男が来やがった。全く、俺はいつ休めばいいんだ?
「ん?……ああ、こいつはそんなんじゃねえよ」
「だってそれ、隊長の若い頃の写真でしょう?確かにイイ男かも知れませんが、俺の若い時ゃあ、それはそれはもう大変なもので…」
面倒なので遮って答える。
「だからそんなんじゃねえって。これは俺の双子の兄貴の写真だ」
「兄貴?ああなるほど。でもしみじみ見てるって事は、もう死んじまったんですか?」
「生まれた村が戦闘に巻き込まれた時、散り散りになってそれっきりだ。別後はずっと会っちゃいない。多分生きちゃいないだろ。親父とお袋もその2年前に炭になっちまってたしな、『いつか絶対、俺たちの力で平和な国にしてやる』それが俺たちの口癖だったよ」
「そうですか…それじゃあ、」
と奴が言いかけたその瞬間、轟音が響いた。政府軍の奴ら、また騒ぎ出しやがった。
俺が立ち上がった時には、お喋り野郎は既に二歩目を踏み出していた。口数は多いが同じくらい手足も動く。俺がどうにかレジスタンスの部隊長なんてものをやれているのは、こういう連中のおかげだ。
だが、この戦争ももう終わる。今日の戦闘がおそらく分水嶺だ。勝った方に一気に流れが傾き、俺が鼻たれ小僧だった頃から続いていたこのクソ内戦も程なく幕になるだろう。いや、そうなるようにしてきた。そうなるように部隊長へ登り詰め、そうなるように死にもの狂いで戦ってきた。これ以上、俺たちみたいな兄弟が生まれないように。
「さあ、行こうぜ兄貴」
いつものように呟くと、俺は爆音渦巻く鉄火場の中へ駆け出していった。
−−どれくらい経っただろう。
わかるのは、この戦闘が負けに終わったという事と、俺がもう助からないという事。あとは、大の字になって大地に還っていくのを待つだけ。内戦は政府軍の勝利に終わるだろう。もちろん悔しいが、クソ内戦が終わるのには変わりない。
と、思ったら政府軍の制服野郎がじりじりと近づいてきた。銃を携え、じっと俺を見下ろしている。エリートさんの経験値稼ぎか。それもいい。楽に死ねる。
「殺せ。よく狙えよ」
俺は目を閉じ、その時を待った。
ところが、中々福音は響かない。
俺は目を開け、目を凝らし、状況を理解した。そしてゆっくり目を閉じ、こう言った。
「……泣く事ないだろ?もうすぐ俺たちの望み通りじゃねえか、兄貴」
サイコロの目 026-10
べつ-ご【別後】
わかれてからのち